7月5日: 中井書房のこと
愛知県一宮市の個人塾、いしだ塾の塾長、石田喜嵩です。
かつて通っていたお店のことを、ふと思い出したので、今日はその話を。
中井書房さんの紹介
中井書房は、京都の左京区にある古本屋さんです。
学生時代、よく行っていました。
「日本の古本屋」というサイトに、ご店主の手になるとおぼしき紹介文がありました。
創業平成7年4月!老舗の古書肆も多い京都で電子機器のサラリーマンが開いた店。蔵書一代!どんなに大切な蔵書も本人以外には無用の長物扱いされるのが世の常。この命にも代え難い蔵書をそっくり譲って戴き、同好の士に手渡すのが使命と考える。佳品を廉価で!乞うご協力のほど。
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=32020230
ご店主の人柄がよく現れています。
京都の電子機器メーカーに勤めながら蔵書を蓄え、それを元手に商売を始めたというお人。
たしか遠藤周作だったか、古本屋をやりたかったという誰かの言葉をきっかけに、始められたと聞いた覚えがあります。
「遠藤周作が店主だったらお客さんそっちのけで本読んでそうだよね」と笑っていました。
ご店主は、そういう気さくな方です。
ご友人との歓談中に混ぜていただいたこともあります。
余命宣告されたのに自力で回復したという方にお会いしたり、情熱的な書道家の方に「蒋介石のことをもっと知るべきだ」と言われたりしたことを覚えています(蒋介石、残念ながらまだ勉強できていません)。
思い出ばなしいくつか
ご店主がいろいろお話しくださった中の、ごくわずかしか覚えていないのは、歯がゆい思いです。
今覚えていることのいくつかを書き留めておくことで、自分のための記念にしたい。
もちろん、早いうちにまたお訪ねしたいのですが。
アテネ文庫
アテネ文庫という古いシリーズがあります。
ふつうの文庫本よりも小さく、薄い本で、質の高い入門書がたくさんあります。
しかし戦後で紙の質が良くなかったからか、はたまたそのサイズゆえか、劣化しやすく、きれいな状態で残っているものはかなり少ないのです。
そのアテネ文庫が、中井書房の棚に多数並んでいました。
聞けば、「これでもずいぶん減ったんだ。一度アテネ文庫を研究に使うとかで、大学の先生が大量に買っていかれたからね」とのこと。
文学を読む人は
近代日本文学の本が割合多いのも特徴的で、田山花袋『百夜』、正宗白鳥『思ひ出すまゝに』、井伏鱒二『丹下氏邸』、里見弴『安城家の人々』(復刻)など、多くの書籍を売っていただきました。
『安城家の人々』や森鷗外『渋江抽斎』(旺文社文庫)を買ったときなど、オッ、とにっこりして、「こういうものを読む人は、近頃いなくってねえ。」と感慨にふけっておられた。
そして、島根にある鷗外の旧邸を訪ねたときのことをお話ししてくださいました。
鷗外は幼くして地元を離れてから、もう戻らなかった人なので、面影を感じさせるものはあまりなかったが、自筆の書を見られたのはよかった、と。
嘉村礒多全集
ご店主と一緒に棚の前で話していて、私が『嘉村礒多全集』を指さすと、「買いませんか」という。
ちょうど「業苦」と「崖の下」を読んで感動したところだったので、気になっていたところ。
値札は「全二冊揃い18,000円」。ものの価値を考えると決して高くはありませんが、学生にポンと払える額ではありません。
「この作家論をセットにして、さらに安くしますよ」。こんな調子で、ずいぶん負けさせてしまったものです。
「この全集と作家論はね、ある人が売ってくれたものなんだけど、毎月うちに来るんだね。それで、『売れてないね』ってね。二人でいつ売れるだろうって言ってるんだ」。
私こと塾長イシダは、どうもこういう話に弱いたちで、ことに相手が中井さんとなると、ますますその気になってしまって、今日はどうしても懐具合が悪いけれど、ひと月以内にまた買いに来ると言って帰りました。
『嘉村礒多全集』はいま、うちの『宇野浩二全集』の隣に並んでいます。
藤村文庫
またある日、ふと寄ると、「ちょうどいいところにきた」と元気な声がかかりました。
「どこかの大学の先生から買い取りがあったんだけど、その中に藤村文庫があってね。あなた、藤村好きでしょう。もらっていきませんか。」
喜んでリュックサックいっぱいに藤村文庫を詰め込んで、大学の授業に行きました。
建都住宅販売という不動産会社さんの運営する「京の散歩道」というウェブサイトには、中井書房さんが写真付きで紹介されています。
アテネ文庫の写真もあります。
http://kento-sanpo.com/p167
過去の写真をさかのぼると、中井書房さんで買い物をした時の写真が出てきました。
たしか全部、中井書房さんです。

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