7月10日: umbrella の語源

愛知県一宮市の個人塾、いしだ塾の塾長、石田喜嵩です。

ここのところ、連日語源などの詮索をしていますが、今日もそんな話になりそうです。

umbrella の語源

umbrella の発音を確認しようと辞書を引くと、語源として umbra という単語が示されていました。
そこを見ると、「幽霊」の意がありました。授業中だったのでそこで辞書は閉じて、傘の語源は幽霊らしいよー。確かにシルエットはそれっぽいかもねー。などと話しました。

授業が終わり、改めて Shorter Oxford English Dictionary を開いてみました。

やや退屈かと思いますが、一緒に辞書の旅にお付き合いください。
なにしろ、調べた後で読みやすくわかりやすい順番に説明しなおすとなると少々手間になるゆえ。

さてさっそく umbrella を引くと、意外にもまずイタリア語が示されています。

イタリア語辞書を見てみる

昔取った杵柄を腐らせておくのももったいない。真新しい『伊和中辞典』を取り出してさっそく調べます。

イタリア語 ombra は「日陰」の意。元となったラテン語 umbra も同じく「日陰」の意だといいます。

SOD によれば、イタリア語 ombrello は ombra の指小形だとあります。「小さい日陰」→「傘」というわけです。

しかしイタリア語辞書の ombrello の項にはこれも後期ラテン語 umbrella に由来するとあります。

しかしインターネット上で Lewis & Short のラテン語辞書を調べても、umbrella という単語はなさそうです。

おやと思い、Dizionario Etimologico というイタリア語辞書を見てみると、ここには umbrella でなく、umbella と載っています。
umbella という形なら、SOD にも載っています。おそらくは、伊和辞典の誤記でしょう。

ラテン語辞書を見てみる

umbella は、Lewis & Short によれば、パラソルや傘のことです。その記述内に、例が示されています。
マルティアリスという詩人の『エピグラム集』にある詩だということです。

UMBELLA
Accipe quae nimios vincant umbracula soles:
Sit licet et ventus, te tua vela tegent.


 A PARASOL:
Accept this protection against the excessive heat of the sun;
and even against the wind it will serve you as a veil.

残念ながら私はラテン語の素養がありませんので、ToposText というウェブサイトから英訳を拝借しました。
重訳するとこうなります。

「太陽の過剰な熱に対するこの防御を受け入れたまえ。
さらに風に対してすらも、ヴェールとして役に立つだろう。」

この訳の正確さはさておくとして、何たる詩でしょう。ラテン文化にはこのような詩を書く詩人がいて、このような詩を評価して、このような詩を語り継ぐ人がいたのです。

『改定新版 世界大百科事典』によると、マルティアリスはエレゲイアという形の詩形を好んだということですから、この詩もその詩形で書かれているのかもしれません。こういう時ばかりは、自分の無教養が悔しいですね。風に対してヴェールになるというところに、何かユーモアが隠れているような気もします。

umbrella と語源を共にする英語

さて、SODに戻って、ラテン語 umbra に由来する英単語はいくつかありますが、私の目についたうち古いものとしては、umbrage (後期中英語)があり、次いで umbel と umbra (16世紀後半)があります。

umbrage を見ると、まずは単に「陰」の意味ですが、16世紀中ごろに「特に木などの下にできる影、また影を作る木などの葉」を意味するようにもなるようです。

ついで、16世紀後半に出てきた umbel は、植物学用語で「散形花序」というのを意味するそうです。
いちおう、『ブリタニカ国際大百科事典』から引用します。

「無限花序の一種で,花序軸の頂端に,ほぼ同じ長さの花柄をもつ多数の花が放射状についている花序。これは総状花序の主軸が短縮し多数の花が一点に集った形と考えられ,ウコギ科,セリ科に普通で,そのほかサクラソウ科,ネギ類,ヒガンバナ類などにもみられる。」

もう一つ、16世紀後半に出てきた用法に、umbra があります。これは、先述の通り「幽霊」の意味です。ラテン語 umbra の「影」という意味に由来するようです。

少なくとも今分かった限りをまとめると、ラテン語 umbra 「影、蔭」は、英語に入ってまずは同じように「影、蔭」の意に使われるが、そこから植物と結び付けられ、やがて「散形花序」の意になり、同じころ「幽霊」の意味も現れるようになる、というような感じでしょうか。「散形花序」の意味が出る前にパラソルや傘の意味が入ってきていないと不自然ですが、それにあたる単語を見落としたか、このころはまだラテン語の文化がイギリスに十分残っていたのかもしれません。

いやはや、語源一つ調べるのも楽ではありません。

second の語源

しかしもう一つ、調べたい語源がありました。

これも同じ授業時間中、「秒」と「次の」を意味する英語が同じ second なのはどういうわけか、聞かれて(本当は自問して)答えられず。

しかしこちらはそう難しくありませんでした。というより umbra の方で時間を使いすぎて余計なことを調べる時間がありませんので、問題の部分だけ。

「次の」の意味の方の second の説明の中に、「下位の尺度のさらに下位の尺度」ということが書かれています。

つまり、hour という普通の時間の単位を一度60分割した minute をもう一度60分割した単位が second だというわけです。
形の上だけでも、語源が保存されているのは、おもしろいですね。

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